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ルイヴィトンアルマbbブログ編集

——本当だ。知り合いのテレビタレントがあのすぐ裏の家を最近買ったんだ。そいつは俺がJ大の建築科だったことを思い出して、たった今報らせてくれたんだ——  隅田は|唸《うな》った。 「奥さんはどうしたろう」 ——うまい具合にきのうの午後岡山へ発って留守だったそうだよ—— 「で、原因は……」 ——そこまでは知らんね。お前はすぐ出かけるんだろう—— 「一応はそうしなきゃなるまい」 ——折角思い出して報らせてくれたんだから、俺もそのタレントの家へ火事見舞いに行く。向うで会えるな—— 「うん」 ——元気がないな。どうかしたのか—— 「いや……会って話そう」  隅田は不快なものが拡がりはじめるのを|圧《おさ》えつけるように言い、電話を切った。  まさか……と思った。まさか放火ではあるまい。しかし夫人が岡山へ向ったとすれば無人の邸になっていた|筈《はず》だ。それとも遺稿整理に当っていた連中が残っていて、何か不始末をしでかしたか……。どちらにしても土蔵づくりとは言え、それは外観だけのことで、全焼というからには肝心の書庫も焼けてしまったに違いない。これで手がかりは何もなくなってしまったことになる。夫人は仕事のことなど一切知らされず、自分でもその気の全くない穏やか一方の女性だから、どうころんでも時の権力者に関係するような大それた秘密など知る筈がなかった。 「頼りは石川だけか」  隅田は声に出して言い、ソファーに腰をおろすと雨戸を閉め切ったむし暑い居間で煙草に火をつけた。  どことなく甘ったるい感じで、そのくせに仙人じみた風格のある白日書房の石川の顔を思い浮べて、隅田はため息をついた。  あの青年はいったい何を探りあてているのだろう。必要なことを知っているだろうか。探りあてていなくても、少なくとも問題の宗教関係の資料やメモのたぐいを読み漁ったのだから、Q海運や東日グループに関するものがあれば気づいた筈だ。しかしそれを充分に記憶していてくれるだろうか。隅田は|憂《ゆう》|鬱《うつ》だった。
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