ルイヴィトンダミエメンズベルト
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null 刑事事件か交通事故か、わからないのでとりあえず、両面から捜査は行われていた。  もしも交通事故でないとすれば、死体所見から墜落なども考えてみる必要があった。  私は現場を見ていないから、はっきりしたことはいえないが、交通外傷は横から外力が作用し、転落は上から作用する。その違いはあるけれど、人体に生ずる外部の損傷は、ほぼ似たような場合が多いから、注意すべきであろうと意見を述べて検死は終った。  明確な死因とくわしい死体所見をつかんでおく必要があったため、監察医務院で行政解剖を行うことになった。  午後一時から解剖は行われた。  本庁から検視官、所轄からは立会官をはじめ鑑識係など数名の刑事、それに交通の警察官も立会っていた。  からだの外部にみられる出血の部位に一致して、筋肉内出血がみられた。内臓は左《さ》腎《じん》、脾《ひ》臓《ぞう》の破裂があり、左骨盤の骨折もみられさらに右側にある肝臓も、破裂していた。  後頭部に頭皮下の出血があり、頭《ず》蓋《がい》底《てい》にわずかな骨折があって、軽度の脳《のう》挫《ざ》傷《しよう》があった。  全体的にからだの左側を強打しているのに、右側にある肝臓までが破裂しているところをみると、交通事故というよりはもっと衝撃の強い、墜落のような外力が作用したと考えた方が合理的のようであった。  そのころ、身元が判明した。  同時に現場には道路に沿って、四階建ての会社があり、その屋上に一足のサンダルがあって、身内の人に見せたところ本人のものと確認されたというのである。  四十九歳の自営業者であったが、最近営業不振でノイローゼ気味になっていて、死にたいなどと語っていた。  昨夜来、帰宅していなかったこともわかり、遺書はないが自殺と思われるとの連絡が、解剖室の立会官の元によせられた。  ビルの外階段から屋上にのぼり、裏通りに向かってとび降りれば、コンクリート塀の外側の道路わきになるというのである。  交通事故は否定され、とび降り自殺として落着した。    似たような事件があった。  老母が道端で倒れていた。