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louis vuittonルイヴィトンタイガ編集

 両膝《りょうひざ》を草地について、エリンは天を見上げた。  日をはじいて光るリランの姿が、ぼんやりとかすんでいく。  息をするたびに激痛《げきつう》が走り、涙《なみだ》が頬《ほお》を伝った。  闘蛇《とうだ》が輪をせばめてくる。  そのにおいを感じたとき、これまでのすべてが、一瞬《いっしゅん》の夢だったのではないか、という思いが、脳裏《のうり》を貫《つらぬ》いて走った。  いま、自分は母とともにいて、闘蛇《とうだ》に食われるところなのだ。  その牙《きば》が届《とど》くまでの、ごくわずかな時間に、一生の夢を見たのだ。  ジョウンが、エサルが、ユーヤンが、トムラが、そしてイアルの顔が風に吹かれる雲のように心に浮《う》かんでは消えていく。  リランが応《こた》えてくれた日の光景《こうけい》が、初めて天を舞《ま》った光景が、輝《かがや》きながら交合《こうごう》した姿が、次々と目の奥《おく》に浮《う》かんだ。  なんと豊《ゆた》かな夢を見たのだろう。  エリンは微笑《ほほえ》んだ。 ──ゆっくりと、自分の身体《からだ》が地に向《む》かって傾《かたむ》いていくのを感じながら、エリンは浅い呼吸をくり返していた。 (おかあさん……)  頬《ほお》に草を感じたとき、ふいに正気《しょうき》がもどってきた。自分が、あとすこしで闘蛇に食われて死ぬのだという容赦《ようしゃ》のない思いが胸を貫《つらぬ》いた瞬間《しゅんかん》、たとえようもない虚《むな》しさが、胸の底に広がった。  母も、こんな思いを味わいながら死んだのだろうか。  ひたすらに生きた一生が、こんなふうに終わることを知って、この骨を噛《か》むような虚《むな》しさを感じたのだろうか。 (……まだ、死にたくない)  唐突《とうとつ》に、その思いがこみあげてきた。  こんなふうに、終わりたくない。
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